TOP 特集 私の心の琴線にふれる日本の伝統美
私の心の琴線にふれる日本の伝統美

私の日本の本

私の心の琴線にふれる日本の伝統美

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アリス スーさん

ヒューストン在住 70歳

主婦。 ご主人と5人の子供、5人の孫。台湾生まれ。結婚後、国際貿易会社に勤務中、自身の転勤によりNY州ローチェスターに海外赴任。1981年以降はヒューストンが拠点。仕事と子育てを両立し、地域開発や総合建設業などに携わっていたが、2011年病気により仕事をリタイア。2015年より生け花を始め、現在いけばなインターナショナル・ヒューストン支部に所属。日本渡航歴は数え切れないほど。昨秋は下呂温泉と北陸の旅、今年5月はご主人と伊豆半島周遊を予定。

ヒューストン市内きっての閑静な高級住宅街・メモリアル地区にご主人と二人で暮らすアリスさん。30年前にご主人がデザインした大邸宅の玄関を入ると、優雅ならせん階段と吹き抜けのエントランスホールが開放的に広がる。英国クラシック調のリビング空間の随所には、春を彩った生け花が季節を演出している。これらは毎週池坊と草月の各お稽古に通うアリスさんの作品だ。2つの流派を同時に習うって珍しいですね、と尋ねると、「春色無高下、花枝自短長(禅の思想)。自分が楽しめればそれでいいのよ」とクスッと笑う。長い闘病生活を経て病気が回復してきた頃、日本通の息子さんの勧めで始めた生け花。花のエネルギーはアリスさんの心も人生も豊かにした。見せてくれた手作りの生け花ダイアリーには、毎回習った生け花が丁寧に手書きで記録されている。そして所々日本語で書かれた一文も。「薬剤師で日本と貿易取引をしていた父は日本語が堪能だったの。その影響で私も独学で日本語を学んでいて、、」とはにかむ。親日派の両親の元で育ったアリスさんにとって、日本は幼ない頃から親しみを感じる国だった。以下は2017年に東京の草月流本部に訪れ、海外居住の外国人向けクラスを受講した時の写真。

目下生け花に夢中だが、アリスさんは昔から大のアート好き。中でもお母様から手ほどきを受けた”裁縫”は、人生を通じての趣味と自負する。「生地が大好きなんです。いろんな色や柄の生地を組みわせて形にしていくのが何より楽しい」。特に日本の伝統的な装飾美である着物素材には、若い頃から魅力を感じていたそう。「京都の西陣織会館で着物を見たとき、その気品優雅な美しさに目を奪われました。あっ、そうそう」と、アリスさんはふと思い出したように2階に上がる。そして手にとってきたのは京友禅の着物を着たジェニー人形。1985年に訪日の際、東京・三越でジェニーの着物柄に一目惚れし、娘さんのクリスマスギフトとして購入したものだ。「ただ、西陣織と京友禅との違いを知ったのはつい最近なんですけどね」と苦笑する。アート好きのアリスさんへ、孫たちから贈られた数冊の大人の塗り絵。ある日その一つ『ぬって飾れる 京きもの ぬり絵本』の巻頭ページの豆知識を読んではっとした。「同じ京都の着物でも、友禅は白生地に模様を描き染め出したもの、西陣は先染めした糸で模様を織り込むもの。制作工程が全然違うんですね。私は絵画のようにモチーフを描く手描き友禅に、より魅力を感じました」。多忙な日々の中、たまに遊びに来る孫と一緒に楽しむぬり絵はたわいもないひととき。「公家の文化や草花など、雅な日本の伝統美の図案を自分の感性で自由に彩色していくのはとてもワクワクします。無心になって手を動かすうちに、雑念から解放され心が安らいでいきますね」。

ぬって飾れる 京きもの ぬり絵本

花鳥山水等を写した京友禅の秀麗なぬり絵

四季折々の草花や自然をモチーフとする、日本の美意識が表現された京友禅の図柄。生け花の生徒である私にとって、どれも感性を揺さぶるものです。とりわけ春の訪れを告げる満開に咲き乱れる桜と野鳥の図柄。春色を塗っているだけで明るい気分になります。また祭礼で使われる豪華な山車の図柄は、名古屋市内の美術館で見たことがあり懐かしい気持ちに。日本の伝統文化が息づいた様々な文様は見てるだけでもうっとり。私の日本の旅の思い出と重ねながら楽しんでいます。

(アリス スー)

取材/グラント里香