私の日本の本
禅の世界観に魅せられて
マイケルさんが禅と出合った理由は、少し特殊かもしれない。「きっかけは11歳で注意欠落障害(ADD)と診断されたこと。イライラと鬱が繰り返し襲ってくるのと、薬の副作用による無気力感が続いているのがつらかった。なんとか自力でADDを克服したいという思いで、ヒューストン禅コミュニティに参加したんです」。16歳で初めて座禅を組み、瞑想を体験。「心が落ち着いて、そして正常に働いていることを実感しましたね」。大学時代には居合術も習い始めた。「居合術と禅に惹かれたのは、真剣に取り組むことで心身ともに鍛えられる、という実用的な考え方から。“信じる者は救われる”というキリスト教徒の考え方は、僕にとっては不合理で納得のいくものではなかった。それよりも、努力と訓練によって自己改善を目ざすという日本の伝統的な精神論の方が僕には信憑性がありました。実際、続けていくことで身体と意思は鍛えられたし、強い精神力が得られたと断言できるよ」とマイケルさん。食事療法も功を奏し、20代でADDを克服してしまったそうだ。
居合術の発祥の地・日本で武術を極めたいと27歳で渡日、4年間を過ごす。東京目黒区にある目黒不動尊の近くに住んでいたこともあり、寺の敷地の散歩や仏像を眺めることが日常になった。「思い返せば、13歳で初めて日本暮らしを経験したときも寺巡りをしていたんです。凛とした空気と静粛な時間に平和を感じました。初めて見た仏像は、高徳院の鎌倉大仏。そのとき鎌倉で買ってもらった狛犬は、今も僕の宝物です」とマイケルさん。仏像鑑賞の魅力を聞けば「彼らの姿勢ですね。そこから激しい怒りや永遠の静けさを読み取ることができるから」。ただ残念なことに、これまで見てきた仏像には英語の解説がないものもあった。「テキサスに戻ってからこの『仏像バイリンガルガイド』の存在を知りました。漠然と認識していたそれぞれの仏像の由来や役割がようやく理解できましたね。今まで見たことのある仏像がいくつも載っていてうれしくなったのと同時に、各仏像に込められた思いを知り、改めて心が震えました。次回日本へ旅したら大威徳明王を訪ねるつもり。水牛に乗って、6つの顔と手と足がある奇妙な仏尊はなかなかいないからね!」
「禅」は精神を統一して悟りを開く修行であると同時に、生き方の姿勢でもあると考えるマイケルさん。尊敬しているのは、臨済宗の僧侶・沢庵宗彭。その師が眠る東京・品川の東海寺で座禅をした経験はいい日本の思い出だ。
仏像バイリンガルガイド
日本の旅に必携のハンディガイド
外国人観光客にとって日本のお寺や仏像はとても神秘的なので、それには解説が必要。この本には仏の起源やアイデンティティ、神々の共通点などがイラスト付きでわかりやすく解説されています。仏像に込められたストーリーを事前に認識しておくと鑑賞のしかたも変わり、仏像巡りがより楽しめると思いますよ。コンパクトなサイズなので旅行の携帯にも便利ですね。日本に住んでいたときにこの本に出合っていたら、もっと仏像の深い意味を理解できたのに!
(マイケル パコーラさん)
取材/グラント里香 編集/藤田 優