私の日本の本
歌舞伎の世界に魅せられて
豪華絢爛な衣装、禁断のロマンス、人知を越えた神の存在、蒸し暑い夏でも震えるほど恐ろしい幽霊。世界中を席巻するマンガ、アニメ、Jポップらのずっと以前から、日本を代表する娯楽は歌舞伎だった。ドラマツルギーやビジュアルセンスなど、あらゆる意味において歌舞伎が現代日本のポップカルチャーの父だということに、疑う余地はない。「初めて歌舞伎を観た後、歌舞伎の世界観で私の頭は破裂しそうになりました。アニメは世界中で大人気なのに、大多数の日本人が歌舞伎を観たことがないという事実には、いつもびっくりさせられます。マンガ『ドラゴンボール』のファンたちが歌舞伎を観たら、きっと私のように歌舞伎を好きになるはず」
日本へ引っ越してから、デボンさん夫婦は毎月のように歌舞伎座や国立劇場へ出かけ、伝統芸能鑑賞を愉しんでいる。「荒事(あらごと)でにらみをきかせる立ち役(男性)よりも、美しくたおやかな女形に心惹かれます。舞台上の季節感がまるで現実であるかのように劇場を満たし、錯覚を誘います。そして演劇的にもっとも興味深いのは『世話黙り(せわだんまり)』のシーンで、暗闇の中という設定で敵味方が無音で移動し、お互いを手探りで牽制しあうのです」。下の写真は去年の冬、夫と一緒に箱根の旧東海道を歩いた時のものだが、「雪がしんしんと降り、甘酒茶屋の女中さんがお守りを道中の安全にとくださいました。辺りは静かで私たち二人だけ、まるで江戸時代へタイムスリップして、黙りのシーンを演じているような気がしました」。
そんな歌舞伎ツウのデボンさんの目を引いた本の一つが、『バイリンガルで楽しむ歌舞伎図鑑』だ。「ものごとは、知れば知るほど良さがわかります。知りたいと思えば思うほど、そのことがもっと好きになり、さらに掘り下げたいと思うものです。人生を有意義なものにするには、少しだけ特別な努力が必要です。歌舞伎の道具、舞台装置、それから詳細なメイクの写真などを見ると、役者さんの演技の秘密も分かってきます。この『歌舞伎図鑑』のおかげで、以前よりもっと歌舞伎の舞台が味わい深いものになりました」。
バイリンガルで楽しむ歌舞伎図鑑
彩り豊かな芸術やトップの技を伝えている
七代目市川染五郎(現・十代目松本幸四郎)丈が、まるで舞台裏を読者に案内してくださるかのように書かれているのが、素晴らしいです。小道具や衣装を見ていると、芝居をドラマチックに仕立てるための驚くべき工夫が感じられます。読み終わって、劇場へ行くのが待ち遠しくなりました!伝統芸能、日本語や日本文学を学習中の人、日本史、着物、舞台芸術、マッチョな決闘や悲恋物語などに興味を持っている人々——誰もが楽しめる本だと思います!(笑)
(デボン メニューエイ)
取材/「日本の本」編集部 メイン写真/京都芸術センター