私の日本の本
新しい言語を学び、新しい自分に出会う
日本語を学ぶために日本で暮らすことになったディーンさん。実際、日本での生活が始まると、頭に浮かんだまま離れなかったのは江戸中期に書かれた武士道書『葉隠』の一節だった。どんな内容かといえば、地方に勤めに出た家臣がその土地の方言をそのまま直さずにいたことで、殿に対して義を欠いた態度をとったと非難された逸話である。「遠い国から来た“よそ者”として経験を重ねるうちに、このエピソードが身につまされるようになりました。僕自身も人に対してどうふるまうべきか、とても注意深くなりましたね。日本語を学ぶことで、ものすごく自分が変化したと思うよ!」
夏目漱石著『坊ちゃん』を読んだのは、ポートランド州立大学で日本語を学び3年目に入ったとき。小説にある自己探求と自己変化といったテーマに触れ、『葉隠』と似たものをディーンさんは感じたという。また、夏目漱石と自身の経験に共通点があることにも気がついたそうだ。「漱石はロンドンで数年学んだ後、日本に戻り松山中学校で英語を教えました。その経験が『坊ちゃん』のベースになっているわけですが、生徒や先生、そして近所で出会う人たちから“浮いている”ように感じたのは、僕も漱石も同じなんですよね。漱石が経験したことが、『坊ちゃん』ではたっぷりのユーモアをもってリアルに表現されています」
現在教鞭をとっている藻岩中学校の任務を終えたら、コロラド大学院に勤務が決まっているする。そこでは助手としてアジアの言語学と文明学を教えることになる。「これから日本文学を学びたいと思っている人には、小学館が編集した『坊ちゃん』を推薦します。注釈や解説がついているのがとても役に立ちます」。コロラドに赴いたとき、再び自身が場違いな場所にいるように感じたとしても「漱石の言葉が慰めてくれるはずだよ」と笑うディーンさんだ。
坊ちゃん
小説で日本語を楽しく学ぶ
日本語を楽しい方法で勉強したい人々に『坊ちゃん』を薦める。小学館が編集したこの本は理解しにくいフレーズをわかりやすく解説し、漢字を勉強している人にはふりがなも付いているのでとても便利だ。あらすじは、東京の裕福な家で育った主人公・坊ちゃんが愛媛県松山にある中学校の数学教師に赴任し、再び東京に戻るまでの顛末を描いたもの。無鉄砲だけれど正義感にあふれていて、周囲の人々を巻き込みながら社会の理不尽に立ち向かう。この本は日本語を学びたい人にとって必須の小説だと思う。
(ディーン ライニンガー)
取材/デヴォン・メニューエイ 編集/藤田 優