私の日本の本
米国人尺八奏者が心打たれた、情趣溢れる紅葉の王国ー京都
アメリカ人の青年がなぜ尺八の世界に?とまずは疑問に思うだろう。元はバイオリニストとして将来を有望視されていたショーンさんは、ケガによりその道を断念。そして19歳の時に訪れた中国で、偶然にも日本の伝統的な木管楽器「尺八」に出合い恋に落ちた。「空気を震わせて音をだす尺八はサウンドを持たない。だからこそその澄みきった迫力のある音色は本当に美しい」。瞬く間にその才能が花開き、演奏者として世界各国を舞台に演奏。来日歴も6回ある。ショーンさんが作曲した作品の数々は、師匠から「和の情緒溢れる、巧みに作られた西洋のフィリグリー細工のよう!」と評され、ミルウォーキー交響楽団やクリーヴランド管弦楽団他によって広く演奏されている。
そんなショーンさんが日本の伝統文化の魅力に目覚めたのは5歳まで遡る。「細い線、太い線、曲線、まっすぐな線。なんて美しく神秘的なんだ文字なんだろう」。初めて日本語を目にした時、「この文字を解読したい」という強い好奇心が生まれた。手始めは空手などの武術から、のちに日本の文化や伝統芸能、歴史を理解するために日本語の勉強に励んだ。今や彼の会話力や読解力は独学とは信じがたいほどのレベルだ。
ショーンさんが日本の伝統文化の中で最も魅了されたのが、「幽玄」「粋」「もののあわれ」などの日本古来の美的理念。「その情趣が際立つ和歌や短歌、枕詞が大好きで、詩を引用して尺八の作曲も手がけてます」。その曲の中には「紅葉」「暁」「春過ぎ」など、四季折々の鮮やかな風情を感じさせる歌が多い。「歌をイメージするなら僕は”秋”が好き。冬は白一色で音色にすると単調でちょっと面白くない。でも秋は暖色系の中にも柿色や茜色、栗色、黄金色など様々な色彩が自然界を飾る。だから音が作りやすいんだ」。そんなショーンさんが、表紙の紅葉の美しさに魅せられて手にとったのが『京都紅葉めぐり、雪模様』。「ページを捲るたびに「信じられない!」「すごい!」って連発したね。だって想像を絶する美しい景観ばかりだから。紅に染まる木々と、黄金色の銀杏のカーペットが輝く上御霊(かみごりょう)神社の境内の写真は、目に焼き付いてるよ。まだ京都には行ったことがないけど、この本を読んで、京都にちなんだ曲を作り、近いうちに京都で演奏したいって、そんな意欲が湧いてきたね」
京都紅葉めぐり、雪模様
京都の豪華絢爛な絶景スポットへのパスポート
自然を愛する人はもちろん、そうでなくても絶対この本を読むべき!特に紅葉の写真には絶句です。きらびやかに彩った紅葉に覆われた各境内は息を呑むような美しさ。写真もさることながら、文章の描写も鮮明で美しい。護王神社の”亥子(いのこ)祭”のことなど、日本の伝統文化に精通する僕でも知らない逸話も満載です。景観や儀式の写真に陶酔し、その世界に引き込まれたかのような気分になりました。
(ショーン 蓮蔵 ヘッド)
取材/グラント里香